
I. 犯罪被害者への基本アプローチ
背景
被害者が遭遇した犯罪にどのように対処していくかは、犯罪直後の経験により大きく左右されます。警察を始め法執行関係者は、通常被害者に最初に接触する立場にありますが、その意味でも被害者が犯罪直後の精神的ショックから立ち直り、身辺の安全感を回復し、自分の生活を取り戻すための手助けができるというきわめて重要な役割を担っています。
犯罪の起こった状況と犯罪現場により、最初に駆けつけた警察関係者は様々な形で被害者および被害者のニーズに対応する必要に迫られます。それぞれ特有の犯罪および犯罪現場を認知した上で、各状況に応じて優先すべき任務の遂行が求められます。
医師の診察の必要性、事実および状況の把握、関係者への連絡、被疑者に関する情報収集など警察関係者には様々な職務があります。ここで警察にとって被疑者の逮捕が最重要事項であることは言うまでもありません。被疑者の逮捕は現被害者に安堵をもたらすだけではなく、犯罪の再発防止にもつながります。
状況により被害者への最初の接触を遅らせる必要が生じることもあります。例えば犯罪が進行中であったり、犯罪の証拠収集が一刻を争う場合は、すぐに被害者に対応することができないこともあります。しかし、急を要する任務が一段落した後で、被害者とそのニーズに立ち戻ってください。この時点で警察が被害者に適切に対応し、法執行関係者としての任務の説明を行い、被害者と共に解決に向けて動くことが非常に重要なのです。
被害者への適切な配慮により、警察は被害者より信頼を勝ち得て、安心して協力を仰ぐことができます。被害者が犯罪の詳細な情報を警察官、捜査員、検察官に提供することにより、捜査もスムーズに進み、早期検挙につながります。警察は被害者のためにできる限りの支援を提供することになりますが、被害者にはその義務はないことを念頭に置いてください。
犯罪発生直後に被害者は、1)安心感の確保、2)感情が表現できる機会、3)以後の立場と取り扱いについての知識を求めています。このハンドブックでは上記のニーズにどのように対応できるかをカバーしています。
被害者のニーズへの対応
被害者は安心感を求めている
多くの場合、被害者は犯罪直後に無力感や不安、脅威を感じています。最初に駆けつけた警察がどのように被害者の不安を和らげることができるか、以下を参照してください。
- 自己紹介し、氏名と役職を告げる。役割と目的を簡単に述べる。
- 言葉を選び、姿勢、態度や口調に気をつけ、被害者の安心感を高めていく。「大丈夫。もう安全ですよ」、「私が駆けつけましたから、ご安心下さい」等の言葉で被害者を励ます。ボディランゲージを活用して、被害者への気遣いを明確にする。うなずいたり、自然な形で視線を合わせ、着席している被害者に対しては立って話し掛けるのではなく同じ高さの目線になるようにし、腕組みをせずオープン・スタンスを心がけ、静かな落ち着いた声で話すなどが、その例である。
- 何が起こったのか簡単に説明するように被害者に求める。負傷していないか訊ね、医師の診察が必要であれば優先する。
- 被害者に代わって家族、友人、危機介入カウンセラーに連絡して欲しいか訊ねる。
- 事情聴取においてはプライバシーを厳守することを明確にし、被害者が安全と感じる場所にて行う。
- 被害者が自ら決断でき、自分自身を取り戻せるような簡単な質問をする。例えば、「何か飲みたいですか」、「中で少しお話をうかがってもよろしいですか」、「ジョーンズさんとお呼びしてよろしいでしょうか」など。
- 被害者の陳述については秘密保持義務があることを機会あるごとに伝える。
- 特に気にかかっていることや必要と感じていることがあるかを訊ねる。
- 被害者と別れる前に「セーフティネット(安全網)」を整える。被害者の関係者、専門家に連絡を取り支援を確保する。支援や情報を提供する関連団体が記載されたパンフレットを必要に応じて被害者に手渡す。このパンフレットには、地域の危機介入センターやサポートグループ、検察庁や被害者・証人援助局、さらには州の被害者補償・援助局、全国ネットの支援団体の連絡先、およびフリーダイヤルのホットライン等が記載されていなければならない。
- 被害者に自分の氏名と連絡先を書いて渡し、質問や何か手助けが必要であればいつでも連絡するよう伝える。
被害者は感情を表現する必要がある
被害者は犯罪発生直後の精神的ショックの後に、自分の感情を吐露し聞いてもらう必要があります。被害者は自分の持つ感情を誰かに受け止めてもらい、話を公平中正な立場の人間に聞いてもらう必要があります。被害者には恐怖感に加えて、自分を責める気持ち、怒り、恥、悲しみ、否認などの感情を抱いていることが多く、大概が「こんなことが自分の身に起こるなんて」と考えています。感情的苦痛は、笑い出すなど一風変った形で表れることもあります。突然自分の身に降りかかった脅威に対し、怒りを感じることも多いのです。この怒りは時として被害者の支援者に向けられる場合もあり、例えば、警察関係者が現場に到着するのが遅かったと怒りを爆発させたりします。このような被害者の感情を表わす必要性への対処については、以下のガイドラインを参照してください。
- 被害者の感情の表現を中断しない。
- 被害者の態度、表情、口調、態度、視線の合わせ方、うわべの様子等のボディランゲージに注意し、被害者の気持ちや話の内容を把握する。
- 犯罪に対する感情的な反応は自然なものであることを伝える。「とても怖い目に遭われたわけです。お気の毒です」、「抱いてらっしゃる感情はごく自然なものです」、「ひどい犯罪です。被害に遭われて本当にお気の毒です」など、被害者に対していたわりの気持ちを表わす。
- 被害者が自己を責める気持ちを、「あなたは何も悪いことをしていないのですよ。あなたのせいではありません」などの言葉で和らげる。
- 話をする際には被害者がひとりの人格であることを忘れず、単に報告書を書くようなぞんざいな態度を慎む。椅子に座り、帽子を取り、手帳をまず脇において、被害者の気持ちを訊ね、話を聞くようにする。
- 被害者に「お話をすべて聞かせてください。あなたが重要と思われないことも含め、覚えていることは全てお話ください」と伝える。
- オープンエンドの質問をし、「はい・いいえ」で答えられる質問を避ける。「何が起こったのかお話ください」、「他に何かありますか」などの質問がふさわしい。
- 真剣に被害者の話に聞き入っていることを、表情やボディランゲージなどを通じて伝える。また、「ゆっくり時間を取って頂いても全く構いませんよ」、「ちょっと休みましょうか。時間は十分ありますから」などのメッセージも有効である。
- 被害者が話をしている時は遮らない。
- 被害者の言ったと思われることを繰り返すか、言い方を換えて訊ねる。例えば、「そうですね。お話しくださったことを私が正しく理解しているかどうか確認させてください。」、「つまり、こういうことですか?」、「おっしゃったことは、?.ですか」等の言い回しを活用する。
被害後に「次には何が起こるのだろう」という被害者の疑問と不安に対応する
被害者は往々にして捜査過程や法手続上における自分の役割について気遣うものです。また、報道機関の注目を浴びることを恐れ、健康・障害保険や損害賠償の支払について不安を感じています。今後何がどのような過程で起こるかという説明は、被害者の不安を取り除く手助けとなります。また、今後自分の生活に起こるストレスの多い出来事や変化に対してある程度の心構えができます。次のガイドラインを参照してください。
- 報告書作成、犯罪捜査、被疑者の逮捕・罪状認否等の法執行手続について簡単な説明を
行う。
- 今後の捜査における警察その他の関連組織による事情聴取について説明する。
- 被害者に求められる一般的な法医学検査と捜査における検査の重要性について触れる。
- 犯罪報告書のどの情報が報道機関に公開されるのか説明し、メディアが公開情報を報道する可能性を話し合う。
- 犯罪被害者が集中力を欠くようになり、記憶力が低下し、鬱状態に陥ったり、体調を崩すのは自然な反応であることを強調する。一日も早く回復するよう日常の生活パターンを取り戻すよう励ます。
- 支援や情報を提供する関連団体が記載されたパンフレットを被害者に手渡す。このパンフレットには、地域の危機介入センターやサポートグループ、検察庁や被害者・証人援助局、さらには州の被害者補償・援助局、全国ネットの支援団体の連絡先、およびフリーダイヤルのホットライン等が記載されていなければならない。
- 被害者に質問があるか訊ねる。役に立てることがあればいつでも連絡するように念を押す。